ユーザ中心設計のすすめ(第14回)―電源が入らない?扇風機のスイッチ |
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2008/09/18 木曜日 22:48:33 JST |
第14回は、電源が入らない?扇風機のスイッチに関する事例をご紹介します。
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本編
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弊社で利用している扇風機にはイオン発生機能が付いています。一見、普通の扇風機なのですが、肝心な扇風機を回すという操作で迷ってしまいました。
電源を入れても扇風機が回らない
電源を入れようと思い、それっぽいボタンを押したのですが何故だか運転が始まりません。壊れたのかと思ったのですが、操作部をよく見ると僕が押していたのはイオン発生ボタンだったようです。
運転ボタンよりイオン発生ボタンが目立ってしまっている
通常、電源ボタンは色や大きさの違いで、他のボタンと区別されています。しかし、この扇風機では肝心な運転ボタンは他のボタンと同じように配置され、イオン発生ボタンばかり目立っています。そのためイオン発生ボタンを運転ボタンと勘違いしてしまったのです。
イオン発生機能なんてオプション機能だと思うのですが、製品のウリとなる機能をアピールしたいが為に、使用頻度を無視して目立つ位置に配置されてしまっています。扇風機つきイオン発生装置だったらこのスイッチの配列でもかまわないと思うのですが、メインの機能である扇風機が使えないようになってしまっては本末転倒ですね。
※本編部分は使いやすさ研究所<http://usability.novas.co.jp/>の使いやすさ 日 記(No.281 担当:簔輪)より一部加筆修正して転載。
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解説
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「商品としての本質を見失ったユーザ無き設計」
テレビはテレビの放送を見ること、掃除機は掃除をすること、カーナビは(目的地を設定して)道の案内をさせること、・・・。どんなものでもユーザが共通してその商品に対して期待している本質的な機能(目的)と言うものがあります。近年多機能化著しい携帯電話でさえ、待ち受けで番号ボタンを押すと電話をかけられるという本質的な部分は見失っていません(iPhoneやその他スマートフォンタイプは除く)。
さて扇風機と言う絶対的な機能を持つ機器で何故こうしたことが起こるのでしょうか?イオン発生装置という付加価値を前面に押し出したい、とかせっかくの機能なので(ユーザの意図を無視して)ユーザに積極的に使ってもらいたい、という気持ちかもしれません。毎日毎日開発中の商品に接していると、ついついユーザのことより商品や新しい機能のことを考えてしまいがちになります。当然企画者や設計者にも悪気はなく、会社のためを考え、新製品が1台でも売れることを考えた上でのことでしょう。
結果としてユーザは、スイッチを入れるたびに気を遣わないと動いてくれない扇風機を使い続けることになります。今回のように会社で使っていて数十人で共有したりする場合、たまにしか触らないこともあり、使おうとする人間が毎回考えさせられそうです。また複数台を所有する家庭では、他の扇風機と比べて電源ボタンに気を遣わないといけない分、いらいらしてしまいそうです。
別に危険なことはなく、クレームにもならないであろうこうした仕様は、しかし潜在的にユーザに不信感を持たせます。少なくともこれらのユーザのうちの何%かは、「次に買う時には電源ボタンが一番大きなものを買おう。ここのメーカの製品は気をつけないと・・・。」などと思うのではないでしょうか?その機器だけでなくメーカに対しての信頼性にも影響を及ぼしかねません。会社のことを考え、1台でも商品を売ろうとする思いが、結局あだになってしまいます。
あえて大げさに言いますが、メーカとして、開発の段階においてユーザの視点で検討や検証を行わないことのリスクをもっと真剣に考えないといけません。ユーザ視点で考えることは、メーカにもメリットを与える(不用意なデメリットをもたらさない)Win-Winの関係を築くことにあります。
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筆者プロフィール
龍淵 信
1963年生、1986年法政大学工学部建築学科卒業後、工業デザインを勉強。
1992年株式会社ノーバスに入社。2001年4月にグループ会社の株式会社ユー・アイズ・ノーバスの設立に参画。
2005年10月グループ会社である株式会社U'eyes
Design(ユー・アイズ・デザイン)の執行役員を経て、2007年10月よりノーバスの経営戦略室とU'eyes
Designのシニアアドバイザーを兼務。現在に至る。
携帯電話などのコンシューマ製品、公共機器、OA機器のユーザインタフェース開発およびユーザ評価・調査に数多くかかわり、特に自動車用システムは、ここ10年ほどで150ほどのプロジェクト実績を持つ。
株式会社
U'eyes Design:http://ueyesdesign.co.jp
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