横浜市内には「IT産業」関連の事業所(本社だけでなく、支店や営業所等も含む)は幾つあり、またどのくらい数の人々がそこに就業しているのだろうか。
(0)「IT産業」該当業種とは?
そもそも「IT産業」とは、どのような業種を指すのだろうか。半導体や電子回路の設計開発・製造や、ソフトウェアのプログラミング等は、ほとんどの人に「IT産業」として認められる業種だろう。では、カーナビや携帯電話等、IT(情報通信技術)をベースに成り立っている工業製品や情報家電のメーカーは「IT産業」と言えるだろうか?また、コンピュータグラフィックスを駆使したアニメーションや立体映像の制作会社は「IT産業」ではないのだろうか?パソコン販売専門店は?気象情報提供サービス企業は??
こう考えてみると、「IT産業」とは漠然としたイメージに過ぎず、各個人の主観に応じて、対象と考える業種にもかなりの幅があるものと推測される。さらに言えば、今ではITを使わないビジネス活動はほとんど存在せず、手段・道具としてのITはあらゆる分野の産業に浸透している。我々が日常で利用する製品やサービスの中にもかなりの割合でITが内蔵・駆使されており、“どこからどこまでがIT関連で、その先はそれ以外”というように、切り分けることは困難である。
ただ、こうした前提を踏まえたうえで、便宜的に「IT産業」の分野を定め、その事業所数や従事者数などを見てみることにも、意義があると思われる。これにより、産業全体の中でIT産業がどの程度のシェアを占めているかが具体的に分かり、また他都市と比較した場合のその都市の特徴や、経年的にデータの増減を見た場合の傾向(右肩上がりなのか、衰退気味なのか等)が見えてくるからである。
(1)タウンページを使った集計:横浜市内のIT企業数は5,716事業所
横浜市の委託により、㈱浜銀総合研究所がNTTタウンページを活用したIT関連事業所数の調査を実施した。それによると、平成18年3月現在の横浜市内のIT関連事業所数は5,716となっている。この集計で便宜的に「IT産業」とした業種は、表1の通りで、これを
① ハードウェア ・・・ 半導体素子製造、電子部品・機器製造、電子回路設計 等
② ソリューション ・・・ 情報処理サービス、システムインテグレーター、ソフトウェア開発 等
③ コンテンツ ・・・ 映像制作、アニメーション制作、調査・情報提供サービス、放送局 等
④ 通信サービス ・・・ インターネットサービスプロバイダー 等
の4分野に括ってみた結果が、図1の円グラフとなる。ハードウェア分野の構成比率が高いことが、横浜「IT産業」の特徴であることがうかがえる。
表1にある各業種を見て「これがIT産業なのか?」と疑問に思われる方もおられるだろう。また、例として表1に示した以外にも「IT産業」と呼べるか微妙な業種が色々と含まれている。これは先に述べた通り、あくまで便宜的な区分けによる集計である。
(2)総務省「事業所・企業統計調査」を使った集計:横浜市内のIT企業数は2,174事業所、従業者数は約8.4万人
NTTタウンページを使った集計では、他都市や、また全国について同様の集計をすることは労力の面で難しい。
そこで、(1)とは別のアプローチとして、総務省が3年に1回集計・公表している「事業所・企業統計調査」を使って「IT産業」の事業所数・従業者数を導き出してみた。この集計も、(1)と同様に㈱浜銀総合研究所が実施したもので、上掲の表1の細分類に当たるような業種をひとつずつ調べていき、その結果便宜的に「IT産業」と分類した業種の、数値を足し上げたものである。
横浜市の「IT産業」事業所数は、平成16年10月1日時点で2,174あり、これは横浜市内における全産業の事業所数(107,201)の2.0%に当たる。また、これらの事業所の従業者数は83,921人で、全産業の従業者数(1,185,778人)の7.1%を占めている。
(1)のタウンページによる集計に比べて事業所数が少ないのは、通信サービス分野がこちらの集計では全くカバーされていないなど、対象となっている業種の範囲が狭いためである。
(3)ハードウェア分野の構成比が特に高い横浜IT産業
(2)の集計結果は、他都市との比較が可能である。図2は平成16年の「IT産業」従業者数を政令市ごとにグラフ化したものである。
横浜市は、他都市に比べ、グラフ柱の青い部分、すなわちハードウェア分野の構成比が高いことがお分かりいただけると思う。横浜市のハードウェア分野の構成比率は44.9%で、大阪市16.1%、名古屋市19.9%などに比べるとかなり特徴的である。我が国全体ベースのハードウェア分野構成比率は52.5%であるが、大都市部ではソリューション産業が高いシェアを占める場合が多く、このようにハードウェアの比率が高い都市は、横浜市のほか、京都市(56.4%)、さいたま市(46.5%)、北九州市(46.5%)等である。
この特徴が生じた理由を推測すると、やはり京浜臨海部の分厚い先進ものづくり産業群を背景とした、「機械(メカ)」と「電子(エレクトロニクス)」の融合=「メカトロニクス産業」が横浜や周辺地域で盛んなためであろう。我が国の産業競争力を支えていく情報家電・自動車等におけるメカトロニクス産業の今後の発展は、横浜の産業発展にもダイレクトにつながるものであると言える。
( 4)ソリューション産業(=ソフトウェア開発、情報処理システム開発等)は東京に集中傾向
2つの数値だけでは推し量れない面もあるが、都市別の「IT産業」事業所数・従業者数について、平成13年と16年の増減を比較してみると、いくつかの傾向が見られる(表3)。
まず、『ハードウェアがやや大きく右肩下がりで、ソリューションとコンテンツは横ばいか微減』というのが大都市の平均的な姿なのだが、例えば東京都区部(23区)はソリューション産業が大きく伸びている。横浜、大阪、名古屋等のソリューション産業はいずれも右肩下がりなので、統計上は「国内大都市のソリューション産業が東京へ一極集中する傾向にある」と言える。
また、この期間においては名古屋や川崎が良い数値を残している。名古屋については、愛知博の準備期間に当たっていたこと、川崎については、景況回復期に南武線沿線をはじめとするメカトロニクス産業が隆盛を示しつつあったことなどが、理由として思い当たるだろう。
(5)今後の見通し
あくまで便宜的な指標ではあるものの、本稿で示した「IT産業」の事業所数や従業者数が増えていくことは、その都市の産業の活気を示すバロメーターになると考えられる。さらに言うと、横浜のようにハードウェア産業の構成比が高い都市は、やはりこの分野が発展するか伸び悩むかが重要なポイントとなろう。
また、ソリューション産業については、上で述べた東京への集中や、今後進展するであろう中国等へのオフショアリングによって、横浜をはじめとする諸都市の元気が衰えてしまうのか、あるいはまた盛り返すのか、注目されるところである。 〔終〕
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