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永続的成長企業ネットワーク発足記念講演会② プリント
2012/12/18 火曜日 14:29:14 JST

経営は過去の延長線で考えない    CSRを経営戦略に取り込め

11月21日、西区北幸のホテルプライムにおいて「永続的成長企業ネットワーク発足記念講演会」が開催された。講師は関東学院大学教授で横浜市立大学名誉教授の齊藤毅憲氏。講演のテーマは「永続的な企業成長をもとめて」。 前回にひきつづき講演の要旨を掲載します。

100years02.jpg<講演要旨>
4.永続的企業成長のためのポイント
永続的企業成長のためのポイントはどのようなことか、いくつか挙げてみます。
―――能率(efficiency)と効率(有効性、effectiveness)の意味を考える
能率とは「生産性」のことで経営学は伝統的にこれを中心に作られてきました。しかし、米国の電話会社社長で経営学者のチェスター・バーナード(1886年〜1961年)が近代的管理論を唱えて以来、これに「効率」が加わりました。彼の言う効率とは組織目標の達成度で、能率は働く人々の満足度を示しています。つまり目標を達成しても働く人々の満足度が低ければ、結局その会社を辞めてしまうので、企業はやっていけなくなります。そこで組織の目標と、働く個人の目標の統合が必要になります。
これに対して前述のドラッカーは、能率は生産性を意味していると言っています。その著作(1974年)では“doing the right things“が効率で、“doing the things rightly”が能率だとしています。そのたとえとして自動車が普及し始めたころの米国の馬車用ムチ製造業者をあげ、「馬車のムチを能率的につくっていた業者は、自動車の台頭によってサバイブを困難にしてしまった」と言っています。
つまり、交通機関が馬車から自動車に変わるころ、馬車用のムチを専門に作っていた業者は、生産性が上がるようにムチを能率的につくっていたかもしれませんが、時代の変化に目を向けなかったため、やがてムチは売れなくなり、企業が存続できなかった、というたとえです。
経営者として、能率を追求するのは“正しく行うこと”ですが、時代の変化に応じた経営をするという“正しいことを行う”、つまり経営の効率を追求して、いま何をすべきか、判断することのほうが重要なのです。このことを真摯に受け止めなければならないと思います。
私は「能率的なシステムだけでなく、創造的なシステム(イノベーション重視による効率的なシステムづくり)としての企業」が重要だと思います。

―――効率追求のための前提として自社の事業内容(ドメイン)の再検討
現在のような技術革新や顧客ニーズの変化、また企業間競争の激化しているなかでは、収益の源泉つまり「カネのなる木」となっている主力商品やサービスが、いつまでもそのポジションを維持することはできません。次の主力商品やサービスの投入を準備しなければならないはずです。ここに前述の「メイクとクリエイト」の並存が求められるわけです。
そして、自社の主力商品に再検討を加えることが必要です。これを「事業の再定義」とも言います。場合によっては、主力商品の“廃棄”さえも考えることも必要だ、とドラッカーは言っています。
鉄道会社を例にあげると、モータリゼーションが進むことで本業が次第に厳しくなりました。そこで本業の事業内容(ドメイン)を検討することが必要となりました。鉄道会社は鉄道業以外でも生活者のために様々なこと行っていることからドメインを変えるようになりました。これによりサバイブのための新たな可能性を見つけることができました。

―――顧客だけでなく、市場(マーケット)への注目
売上を確保するために顧客の囲い込みを行う企業もあります。しかしドラッカーは「既存の顧客・消費者に関心を払うだけでなく、そうでない人びとにも注目していくべきである」としています。つまり囲い込みだけではいずれ限界がくるので、既存の顧客以外の多くの人たちにも目を向けるように、と言っています。
たとえば、私たちの世代だと本は本屋で買うものでした。しかし、いまではインターネットで購入したり、古本屋で買ったり、あるいは電子書籍をダウンロードすることもあります。すると、来店する顧客を囲い込むだけでは売上に限界が生じてきます。おそらく本屋さんが存続し続けるには、既存のユーザー以外の人びとにも目を向け、事業内容(ドメイン)に再検討を加えなければならないはずです。
このようなドメインの再検討は、いま様々な業種で必要とされています。既存の顧客以外に目を向け、小さな現象も見逃さないように注目すべきでしょう。このとき経営者に求められるのは、俊敏さ(agile)です。ただ早いだけではなく賢く判断することが大切になります。

―――CSRへの配慮
効率性の追求と矛盾するように思われますが、社会貢献を行い、ステイクホールダー(利益関係集団)との関係を維持することは大切です。自社の特徴を生かし、無理のない形で社会貢献することこそが、地域に密着するスモール・ビジネス(地域企業)には重要だと思います。
経営者はCSRを経営戦略に取り込むべきです。地域と関係なくグローバルに動く大企業と違い、地域に密着している企業にとって地域貢献は大切です。おそらく、地域に不可欠な存在になれば、その企業が困難な壁にぶつかった時、ステイクホールダーとなる地域の人びとや、その企業に親しみを持っている人たちが、なんらかの救いの手を差し伸べてくるのでないか、と思います。

―――最悪のケースの想定と連携の重要性
東日本大震災は、企業経営に最悪のケース(シナリオ)を想定することや、“つながり”の重要性を示したと思います。最悪のことは誰でも想定したくありませんが、しかし起こる可能性のある最悪のシナリオを考えることは必要です。そしてCSRを重視していると、たとえ実際に悪いことが起きたとしても、“つながり”が生かされるものと思っています。

おわりに3つのことを申し上げたいと思います。
①サバイブを果たしてきた長寿企業は、時代の流れに合わせ変革(自己変身)しています。変えなければならないときは、勇気を持って経営を変える必要があります。
②「無碍雄図(むげゆうと)」が大切。変化の時代は企業経営を過去の延長線で考えられません。これまでの成功体験にもとづくことなく、無碍(自由に柔軟に考えて活動し)、雄図(大きなビジョンや願望を持つこと)が大切だと思います。
③「経営無涯(けいえむがい)」をめざす。無碍雄図のもとで経営を行うならば、企業は必ずや無限にサバイブし、発展していくでしょう。

私はゼミナールの学生に、教育とは“教える側と教わる側がともに育つこと”だと言っています。これは永続的成長企業ネットワークについても同様のことが言えると思います。ともに経営を学びながら企業を成長させる場、つまりプラットフォームを皆様とともにつくろうではありませんか。
(終わり)
取材:2012年11月21日(文責・記者)


 
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