企業の目的は長期的なサバイブ 利潤は企業活動の成果と考える
11月21日、西区北幸のホテルプライムにおいて「永続的成長企業ネットワーク発足記念講演会」が開催された。講師は関東学院大学教授で横浜市立大学名誉教授の齊藤毅憲氏。講演のテーマは「永続的な企業成長をもとめて」。 ――講演の要旨を2回にわけて連載します。
<講演要旨>
1.はじめに
経営学は、どちらかというと医者の仕事に近いのではないかと思います。なぜなら、さまざまな経営者の話を聞き、そこから経営上の提案をするのが仕事だからです。この経営学という学問は、経営コンサルタントという仕事を初めてつくり出した米国の学者フレデリック・テーラー(1856年〜1915年)により確立されました。
企業のトップが抱える悩みや解決すべき課題は、言うまでもありませんが、それぞれの経営者によって異なります。その解決の一助となるのが経営学で、このため経営学者は医者の仕事に近いのです。では、これから企業や経営について考えてみたいと思います。
2.企業の目的とは何か
企業の目的とは何か?これについては、これまで多くの議論がなされてきました。
まず誰にでも分かることですが、利益がなければ企業は成り立つことができません。経済学の影響もあり、“利潤の追求”が企業の命題だと考えたことがありました。そこでは利潤だけを追求することが大切であると考えられていました。
20世紀の初頭に経営学が成立しましたが、当初、経学でも利益目標を重視していました。しかし、徐々に企業の目標は必ずしも利益だけではなく、それ以外にもさまざまな目標があり、また利益だけをどこまでも追求するのではなく、どこかで満足すべきではないか、という考え方が出てきます。そもそも利益の追求といっても、利益はそう簡単にあがるものでもありません。
私は、企業の目標は一時的に利益を上げることよりも、長期的にサバイブすること、つまり生き残ること、存続し続けることだと考えます。経営学者のピーター・ドラッカー(1909年〜2005年)は、企業は生き残るために必要な「最低利益」に利益の意味を見出し、それは「将来のためのコスト」だとも言っています。
そして、実際に活躍している経営者のなかには「企業の達成すべき目標」として利益を考えるのではなく、企業活動の成果、つまり活動に対するリターン、報酬として捉えている人も多いようです。「利益は後からついてくる」と語る企業のトップもいます。
要するに、企業とは「継続的事業体(ゴーイング・ゴンサーン)」であり、生き残ること、生き続けること、そしてできれば、成長することこそが目標となるのではないでしょうか。経営は短期的ではなく、より長期的視点から見るべきだと思います。企業経営は「山あり谷あり」で、いいときもあれば悪いときもあります。多くの経営者たちは、その悪い将来を想定して事業計画を組んでいると思います。
3.経営の意味を考える
経営とはマネジメント(マネジャーの行う仕事)という意味ですが、この内容には古典的な見解と、現代的な見解とがあります。
古典的な見解は過程論(プロセス)といわれる「プラン(Plan)→実行(Do)→分析(See)」や、「人々を通じて物事をしてもらうこと(getting things done through people)」などがあります。
まず前者のPDSは、現在はPDCASサイクルと言われておりますが、マネジャーは目標達成ためのプランを立て、それを部下に実行させ、その目標を達成しているかどうかを検証し、次のプランに活かすものです。
また後者は、マネジャー自身はプレーヤーとはならず、指示監督することで部下に働いてもらうことを意味しています。ちょうど野球の選手と監督のような関係です。しかし企業の場合、経営者もプレーヤー的な仕事もしているので、とくに規模の小さい企業の経営者はプレーヤーとしての役割が大きくなっています。
また経営には部下の協力が不可欠です。部下との関係や、どうすれば協力的に働いてもらえる人びとを通じてものごとをしてもらうのか、ということで重要になります。
一方、現代的な見解では「企業は環境の変化のなかで目標を達成する」と考えています。ここでは、激しく変化する環境のなかで、企業戦略やビジョンをどう作るのかが経営の仕事として大切になります。
経営にはこうした古典的や現代的な観点がありますが、私は先に述べた「生き残ること」「生き続けること」、そして「成長すること」を可能にするための活動こそが、経営(マネジメント)ではないかと思います。そして、その中核となるのは経営者本人です。
経営者は環境変化のもとで企業を作り、そしてつくり直さなければなりません。なぜならば環境はつねにめまぐるしく変化しており、会社もそれに応じてつねにつくり直す必要があるからです。要するに、経営とは“つくる”ことを続けていくことなのです。
このつくるにはメイク(make)とクリエイト(create)の2つがあります。メイクは、既存の主力商品の売り上げをさらに伸ばすための活動を行うことです。一方、クリエイトは、売上を増やすための新たな商品をつくることです。
私は、サクシード(succeed=何とかしてうまくやり続けていくこと)、つまり「継続」が経営だとも考えています。そして、経営は理論ではなく「本当にやりたい」と思う気持ちが大切ではないでしょうか。私は学生に「君たちが起業するなら理論を学ぶことも大切だが、本当に経営をしたいという思いや意欲が大切だ」と話しています。企業経営には、この経営への意欲と活動(私の言う主体的実践性)こそが必要なのです。
経営に対する意欲をなくすことなく、どこまでも執着して経営し続ける気持ち、それはまさにチャレンジ精神です。自分は経営というとても面白い仕事をやっている、という気持ちがあれば、目の前に立ちふさがる壁も乗り越えられるのではないでしょうか。
(つづく)
取材:2012年11月21日(文責・記者)
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「横浜で最も誇りに思う企業」100社をめざして
永続的成長企業ネットワークがスタート
地域経済を活性化し住民に雇用の場を提供し続けるためには、地元を愛し永続的に成長する企業の存在が不可欠――。こうした地域を愛す100年企業を育てようと、「地域愛・志・情熱」にあふれた経営者を応援する一般社団法人「永続的成長企業ネットワーク」が、2012年11月21日スタートした。
事業の特徴は、次世代の優れた経営者を継続的に多数輩出するため、経験豊かな経営者が若手経営者を順繰りに育成していく、という循環支援への取り組み。一般的な経営コンサルタントが理論で指導するのに対し、同ネットワークは経営者が実際に汗と涙で会得した実践的なビジネス手法を次世代の経営者に伝えようとする。
循環支援の具体的な手法は①会員企業をケーススタディにした長寿企業の研究、②ベテラン経営者の体験をケーススタディにした研究、③地域(横浜市)企業の栄枯盛衰をケーススタディにした研究、④少人数制の座談会方式による経営研究、⑤地域ごとの座談会方式による経営研究など。これに代表理事が会員各社を個別訪問して経営課題に耳を傾け、ともに解決策を探る“出前経営支援”も加わる。
さらに、入会審査も特徴のひとつとなっている。会員になるには同法人役員の審査が必要で、希望してもその企業が地域愛・志・情熱という一定の条件を満たさない限り入会できない。永続的成長企業ネットワークの組織は次のとおり。
<役員>
代表理事:吉田正博(地域自立総合研究所所長)
理事:斎藤毅憲(関東学院大学教授・横浜市立大学名誉教授・放送大学客員教授)
理事:影山摩子弥(横浜市立大学教授)
監事:森谷義博(日本ベストサポート㈱代表取締役)
<会員企業>
[正会員]24年度20社(26年度100社)
[準会員]26年度以降順次加入(1,000社程度)
<フェロー>
大学教授、シンクタンク研究員、中小企業診断士、税理士など
<アドバイザー>
企業支援関係者等、金融機関関係者、行政他専門家等
事務局:西区北幸2-9-40銀洋ビル アーバン・コーポレーション㈱内
TEL045-321-1010(事務局長:吉田純)
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