先進企業のCSR(第41回)―神奈川県情報サービス産業協会・SE講座 |
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2011/08/08 月曜日 09:03:51 JST |
「SEの現状と将来性を知って」
業界認定の講師が10大学で講座
■キャリア開発の一環
就職を控えた大学生にIT業界の現状と将来性を知ってもらおうと、業界団体で講師を派遣する「SE講座」が県内大学で評判だ。毎年のように開講大学が増え、11年度はあらたに、横浜市立大学を加え、10大学で開催している。
一般社団法人神奈川県情報サービス産業協会(神情協)が講座をスタートさせたのは8年前。当時、学生が考えるSE(システムエンジニア)というとプログラマーのイメージが強く、またIT化社会の急進で多忙を極める業界は3K職種のように誤解されていた。さらに大学側もIT業界の現状に触れる機会が少なく、たとえば情報系の講座を持つ教授も第一線で活躍するSEの仕事となると、よく知っている人は極わずかだった。リクルート上も問題なので、業界としては何とかこの誤解を解きたいと思っていた。
■産業能率大学教授が仕掛け人
じつは、産業能率大学の小柴教授が仕掛け人である。SE講座の講師認定審査会の委員長を務め、神情協副会長の野木秀子氏(右写真)は「産業能率大学の小柴達美教授も、学生が業界の真の姿を知らないという状況を憂い、あるとき神情協の産学連携委員会の大西委員長と話をしたのがきっかけと聞いている」と語る。産業能率大学では開講すると学生の評判がよく、翌年は文教大学からも開講の依頼があった。さらに県内28大学が参加する神奈川県私立大学就職研究会でも話題となり、各大学に口コミで広がっていた。
「システムを構築するSEの仕事は創造的で、男女を問わず文系の学生にも向いている。かつてはロジックが大切だったが、いまは"何をするか"が重要。だからコミュニケーションスキルが求められる」とする。
■審査し講師を認定
1講座90分で年14回開講。受講生は平均50~60名。各回テーマと講師が代わる。業界団体でまとめたSEハンドブックに沿って40分ほど技術的な話をするが、それ以外は講師の体験談や業界の話しといった、SEの現場の雰囲気や将来性、仕事のやりがいなどを話す。講師はIT企業の社長から部長までさまざま。しかも、現在48人いる講師は認定審査会で認定されているというのも特徴。講師になるには審査を受けなければならず、レポート「業界にかける夢」を提出し面接も行う。さらに会社の推薦状も必要だ。この厳格さには、業界の現状と将来をより正確に学生に知ってもらいたいという思いが込められている。
■学生は業界の真の姿に興味
では受講する学生の反応はどうなのか。講師たちは異口同音に「技術的な話しより講師の体験談になると学生たちの目が輝く。おそらく教科書に載ってない業界の本当の姿を見るからかもしれない」と言う。また話が一方通行にならないよう、講座の内容もレベルアップできるよう受講前後と、講義ごとに毎回アンケートを実施している。大学や講座によってバラつきはあるものの、それをみるとたいていの学生の受講後の感想は「業界がわかった」「想像と違っていた」。
野木氏は学生が興味を持つ理由をあげる。「ITはツール。そのシステムを知っていれば大きなスキルになるし達成感も味わえる。仕事で多くの業界に携われば、その知識は大きな資産となり、転職でも有利で、もし会社員に飽き足らなければ独立もできる。しかも仕事は場所と時間を選ばずにできる。男女ともにこれほど魅力のある職業はないのでは」と語る。
一般にキャリア開発は企業単独で講師を派遣する。しかし業界団体が講師を認定し、しかも10大学で講座を開いているのは、おそらく神奈川県のIT業界だけかもしれない。その力の入れようが伝わってくる。
(取材2011年7月20日)
*10大学=産業能率大学、文教大学、東京情報大学、専修大学、神奈川大学、関東学院大学、東京工芸大学、横浜商科大学、横浜国立大学、横浜市立大学。
一般社団法人神奈川県情報サービス産業協会:http://www.kia.or.jp/
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