地中熱交換には主に3つの方式
需給の温度差に注目し設置
横浜企業経営支援財団は6月17日、第2回横浜地中熱研究会を開催した。テーマは「地中熱ヒートポンプシステムの構成とシステム設計」(三菱マテリアルテクノ資源・環境・エネルギー事業部ドリリング部、石上孝氏)と、「地中熱利用技術を含むサステナブル建築の先導事例」(慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科、伊香賀俊治教授)。
■地中熱のCOPは4~5
石上氏はシステム設計と地中熱ヒートポンプの原理について解説した。地中熱は年間を通して一定しているため、夏冬で大きな温度差のある空気熱より効率的に熱交換できると説明し、たとえば、エネルギー消費効率を示すCOP(成績係数)で暖房をみると、電気ヒーターを1とした場合エアコンは3~4。これに対して地中熱は4~5となるとした。
また、地中熱交換器から供給する熱と、空調機などで必要とする熱の温度差が小さければ小さいほど、冷媒の圧縮と膨圧を最小限に抑えられるため、ヒートポンプの電力消費量を少なくできるという。システム設計はこれに注目し、夏場の空調、床暖房、温水プールなど地中熱と温度の差の少ない2次側の利用を考えることが大切とした。
■コストを考えた3つの方式
一方、同氏は地中熱交換器方式には主に①ボアホール方式、②基礎杭方式、③水平熱交換方式の3つがあるとした。ボアホール方式は、ソニックドリル工法(特殊振動工法)で179mm径の穴を垂直に100m前後掘削するもの。そこに外径34mm(サイズ25A)の高密度ポリエチレン管を珪砂などの充填材とともにU字型に埋め込み、Uチューブとする。Uチューブの中には、水または不凍液を入れる。これは他の方式も同じ。なお、掘削間隔は4~5mが適当という。
基礎杭方式は基礎杭の鉄筋籠の外側に数組のUチューブを垂直に取りつけ、基礎杭とともに地中に埋め込む方式。熱交換器用の掘削が不要となるのでイニシャルコストを削減できるが、基礎と抱き合わせのため施工精度の確保が求められる。
水平熱交換方式は地中1.5m程度の深さに例えばコイル状の地中熱交換器を連続して水平に埋めるもので、こちらもコスト削減になる。ただし面積で熱を取るので敷地が一定以上に広くなければならず、農地や工場などに適している。
また、国内の技術動向も紹介した。そのひとつは、北海道大学が設計・性能予測ツールとして開発した「Ground Club(グランドクラブ)」で、地中熱交換器を設置する際の基本設計に利用できるという。
2つめは、産業技術総合研究所の水文環境図で、仙台、秋田、関東、濃尾各平野の地下水の情報が手に入れられるという。3つめは入門書。北海道大学地中熱利用システム工学講座の『地中熱ヒートポンプシステム』がわかりやすいとした。
■CO2の40%は建築関連
伊香賀教授は日本のCO2の排出量の40%は建築関連とし、低炭素社会の構築に向けたロードマップを踏まえ、地中熱を含めた再生可能エネルギーの利用促進を訴えた。たとえば、市は横浜市環境配慮評価認証制度をスタートさせており、新築分譲マンションの販売で環境性能表示をしている。
セミナーでは同氏が設計・性能を検証したケースとして、環境に配慮したサステナブル建築8例を紹介した。それは太陽熱と地中熱を利用した「日建設計飯綱山荘や、地中熱によりCO2を17%削減した「国際協力機構北海道国際センター帯広」など。また井水利用によるヒートポンプシステムとしては「山梨県環境科学研究所」をあげた。
(取材2011年6月17日)
三菱マテリアルテクノ㈱:http://www.mmtec.co.jp/
慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科 伊香賀俊治研究室
http://www.ikaga.sd.keio.ac.jp/
財団法人横浜企業経営支援財団:http://www.idec.or.jp
|